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痴呆について

 「えーっと、めがねはどこへ置いたかな?」「あの人の名前が出てこない。」このような物忘れは誰にでもあります。年齢を経るに従ってこの傾向は多くなるようです。しかし、その程度が尋常ではなくなり、いま先ほどしたことを忘れてしまう、さっき食べた食事のことを忘れる、家族の名前が出てこない、このようなことになってくると痴呆症を疑います。一度獲得した知能が低下することを痴呆症といいます。65歳以上の方の6%、全国で125万人以上の方が痴呆症であると推定されています。

 痴呆症は単なる老化現象ではなく病気です。痴呆の原因となる病気はさまざまです。わが国では脳血管の障害による痴呆とアルツハイマー病が多いのですが、早期に発見するとなおる痴呆、進行の予防が可能な痴呆があります。早期に発見し正確に診断することが重要です。

 痴呆症の初期症状はまず物忘れです。同じことを何度もたずねる、同じものを何回も買ってくる、なべややかんを焦がすなどの症状で気づかれます。さらに症状が進むと物忘れだけでなく場所や時間の見当がわからなくなり、夜昼が逆転したり、道に迷ったりします。また記憶障害ともあいまって財布など置き忘れたのを「あなたが取ったのじゃないの」と思い込んだりします。そのほかにも怒りっぽくなったり、無関心になったり、生活がだらしなくなったりすることもあります。

 このようなことがあれば早めに医療機関に相談しましょう。痴呆症の中には慢性硬膜血腫や甲状腺機能低下症などのように治療により治ってしまう痴呆があります。また痴呆と間違えられやすい老人性うつ病も治療可能です。脳梗塞や脳出血などによる脳血管性痴呆は今後の進行を予防するための対策が打てますし、またもっとも治療が難しいと考えられていたアルツハイマー病も抗痴呆薬がすでに開発され使用できます。早く見つけて適切な治療早期に始めることは、ご本人はもちろんご家族のためにもとても大事なことです。

 また、不幸にして進行してしまった痴呆症による妄想や問題行動に対してもさまざまな投薬など対症療法によって介護の負担を減らすことができます。痴呆症の介護は長期にわたることが多いので、介護保険を利用することも大事です。介護保険ではヘルパー派遣、デイケア、通所リハビリテーション、痴呆専門のグループホームなどさまざまなサービスが用意されています。痴呆症は大変な問題ですが、治らないとあきらめないで適切な対応をとることが大切です。

( 池川 真一 )