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健康を会計的にとらえる

 「健康会計」という用語が平成19 年に国から提唱され、少子高齢化の状況にある我が国の持続的な経済成長実現に向けて、人的資本のうちの重要な柱のひとつである健康資本を定量的・定性的にとらえる試みが行われています。7月に内閣府から公表された経済財政白書においても、人材などの無形資産への投資強化がうたわれており、健康資本を含む人的資本の強化は、先進国間のみならず、新興国を含めたグローバルな競争下で我が国が勝ち抜いていくための条件のひとつであるとの指摘もあります。

 各組織で働く人の健康情報は、その組織固有の情報として内向きに処理されますので、通常は、大々的に公表されることはありません。しかし、例えば、米国自動車メーカーの自動車一台あたりの製造原価に占める医療費コストが1,500ドル程度(現在レートで約12 万円) であるのに対し、本邦自動車メーカーの場合は8千円程度となっていること(平成18 年石原謙愛媛大学教授試算)からも分かるように、医療保険制度が異なる国の間で一概に比較できるものではありませんが、ある組織が生み出す商品やサービスの合理的な価格設定という現象面を通じて、当該組織従業員の健康情報は、公の情報として社会とつながっている傾向が見てとれます。

 「会計」という言葉からは、通常は財務諸表などの金銭面での会計情報を思い起こしますが、広い意味からこの会計という言葉をとらえると、ある組織の金銭面に限らない内部情報を、一定のルールに則って社会に公表する仕組みとして定義づけることが可能です。実際、多くの企業において、財務的会計情報のみならず、環境報告書およびCS R報告書などを通じて社会との対話を行っています。近い将来、健康会計のルールが整備され、公表された健康情報を元に、われわれが消費者の視点で商品やサービスを選別する、あるいは新卒の学生が就職先を選択する、といった時代が訪れるのかもしれません。

(昇 淳一郎)