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「大丈夫」と「ごめんなさい」

  患者やその家族との会話で医師が言いづらい語句が二つある。もしかするとそれは、誰しも患者になったときに医師から一番、聞きたい言葉であり、一番、言われたくない言葉なのかもしれない。

  一つ目は、「大丈夫」という言葉だと胸を張って言おう。二つ目は、「ごめんなさい」という謝罪なのではと、うつむき加減に呟こう。前者は医療の進歩に逆行するように、どんどん居場所を失った。後者はもともと表向きには、用いることが妥当ではないとされてきたのではないか。

  開業小児科医として過ごしながら、身内の事故や病気のために医療を受ける側にもしばしば立つことになった私は、何れの語句も大切に大切に発せられるべきものであると、いつしか考えるようになった。

  そして、その言葉が誤解や疑念を生じることなく受け止められて、病む人とその周りの人たちへの励ましや慰めになっていってほしいと心から願う。

  患者から「大丈夫なんですか?」と尋ねられて身構えてしまうことは、医師なら誰しも経験することである。その背景にある不安に傾聴すれば、条件や限定つきではあっても「大丈夫。」と言えることは、どんな状況にあっても残されているものだ。

  細心の注意を払い最善を尽くしても、力及ばない時があるのが医療の現実である。それでも申し訳なかったと思い続ける医師は多い。その気持ちを知って、慰められる家族もいるはずだ。

  漠然としていた私の思いを確信に変えたドキュメンタリー映画がある。聖路加国際病院小児科部長で40年来、小児がん専門医として子どもの「いのち」と向き合い続けた細谷亮太先生の生き様を、「大丈夫。−小児科医・細谷亮太のコトバ−」として伊勢真一監督がまとめたものだ。「大丈夫」は願いであり、祈りであることが伝わってくる素晴らしい映画として特筆しておきたい。

(井上 哲志)