東温市医師会

運動器慢性痛

  運動器とは四肢・体幹の骨格、関節、靭帯、筋、脊髄・神経の総称です。運動器慢性痛の有症率は高く、23〜35%と報告されています。頻度の高い自覚症状としては腰痛、肩こり、関節痛といった症状が上位を占めています。

  運動器慢性痛の最も大きな特徴は、動かすと痛みが出ることです。そのため、多くの人が痛みを理由に安静をとり、その結果、筋萎縮、筋力低下、関節拘縮、神経機能異常などによる二次的な変化(運動器の廃用)を引き起こしてきます。廃用に陥った体をさらに動かすとまた痛みが増悪するため、動かすことへの不安が生じ、動かさない悪循環が起きるのです。運動器は動かしていくことで機能維持を図ることが重要です。従って痛い時は安静にしていれば改善するという“急性的”な考え方は慢性痛ではむしろ症状悪化因子になる場合があります。

  この運動器慢性痛に対しては運動療法がすすめられます。運動療法の目的は柔軟性や体力の向上です。ストレッチから始め、徐々に運動量を増やし、体が動かしやすくなる事で、運動時の痛みに対する恐怖心を軽減し、運動に耐えられるようにすることで、活動的な生活に戻る自信を付けていきます。これにより“歩く” “運転する” “掃除する” “働く”といった日常生活に必要な能力を取り戻していきます。「痛いので出来ない」から「痛みがあってもこんなこともできる」へと考え方を変えていくのです。

  近年、痛みに対する研究が進歩し、新しい薬の使用も可能になりました。この薬の使用や外科的治療等により慢性痛が改善する方もいます。しかし、なかなか運動器慢性痛を完全になくすことが出来ないのが現実です。運動器慢性痛のゴールは痛みをゼロにすることではなく、個人にあったQOL(生活の質)の向上を目指すことが大切です。

(宮本   良治)