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医療の不確実性の再認識

医療行為は、本質的に不確実です。過失が無くても重大な副作用や合併症、事故は起こり得ます。病気は多種多様で複雑であり、高度の診断技術をもってしても正確な診断は困難で、経過の予測は不可能です。さらに治療はやってみなければ結果は分からない。この不確実性を前に悪戦苦闘しているのが現状です。それについて積極的な説明がないのが一般的です。医師の言い訳と誤解される懸念もあるが、いたずらに不安にさせるからです。それが病状を悪化させ副作用や合併症を誘発する(ノセボ効果)可能性がある。その場を取り繕って「大丈夫(安全)、心配ない(安心)」の方がスムーズです。しかし、事が発生すれば、安全・安心と言ったため紛争になる。危険を伴わない、100%安全な医療行為は存在しない。不確実性を受け入れた医療を展開しなければならない。

先ず結論めいたものを上げ、一端を誌面の許す限りに説明してみたい。不確実性が避けられないから、医師は一定の知識や技術の習得した上で、十分な医療情報を提供、医療事故予防の対策を立て、謙虚に誠実に患者の価値観に沿った患者主役の医療に努める。患者さんは、健康は他人任せにせず自分で守る、自己責任を持って自己管理(規則正しい生活、食生活の改善,適度な運動、認知行動療法など)に努め、自己決定権を行使(参加型医療)する。

医療現場では、治療法の選択、処置など、とっさの判断や決断に迫られます。その結果は、ある時間の経過後に明らかとなります。その時点での判断が正しいかどうか分からない。科学技術が発達した今日でも、未来については不確実なのです。予後は過去の研究から統計に基づいた確率で表現されます。高齢者の大腿骨頚部骨折の1年後の生存率が80%と表現されます。80%と言われても、個人には0か100です。骨折で2割もと思われるかもしれませんが、自然死、心疾患などの合併症による死も含まれます。死を正確に予知することは出来ません。それが明日か、5年後か予想は不能で、医療情報も不確実です。同じ条件下で同じ医療を行っても、同一結果ではなく分散するのが医学常識です。同じ術者が同一手術を行っても、術後成績はバラツキます。鍛錬された術者でも、標準的な手術で失敗も有り得ます。医学は常に進歩し、新薬の製造、医療機器の改良、低侵襲手術の開発が続きます。また、病気の種類や病因は時代と共に変化し、病状や病態も常に進行します。患者さんはどうでしょう。異なる性格を持ち個人差があり、価値観や好みは多様化し、過剰な期待を抱くこともあります。医療状勢は常に変化している以上、必然的に不確実性が生じます。

不確実性の説明を受けると不安になり、ノセボ反応が身体化する場合が多々あります。しかし、プラス思考の不確実性を知るとどうでしょう。医療結果は分散するが、想定外に良くなることもあります。薬効の無い薬でも信じて飲めば効き、自己治癒力を高めます(プラセボ効果)。前向きに認識を修正すると、不安が和らぎ、より良い生活、治療、行動を行えるようになる(認知行動療法)。全ての病気に効果があり、自己管理(セルフメデイケーション)の方法の1つです。安心な医療の安心は個人の心の中にあります。不確実性を医療者、患者さんが共有することがより良い医療に繋がるのです。

(白岡  格)