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眼底疾患画像診断の進歩

眼底疾患は、これまで検眼鏡で眼底をのぞいたり、眼底写真を撮影することで、平面的にしか観察、記録できませんでした。しかし、網膜などの断層像を撮影することのできるOCT(光干渉断層計)の登場により、眼底疾患を立体的、客観的に観察できるようになりました。その開発は比較的最近のことで、1990年に山形大学より日本国内の特許出願、91年に日本語論文が出ましたが、91年に米国マサチューセッツ工科大学が独自に米国特許出願、サイエンス誌に掲載されたため、日本は知的財産保護の観点からは遅れをとりました。

OCTでは、近赤外線を眼球に当て、その反射光と基準反射光との波長ずれが干渉作用を生み、それを信号化します。これを深さ方向と測定軸方向に繰り返し二次元画像をつくります。当初のOCTは一度のスキャンで1点の情報しか得られず、深さ方向に繰り返しスキャンする必要がありました(タイムドメインOCT)。現在主流となっているスペクトラルドメインOCTは一度のスキャンで深さ方向すべての情報を得ることができ、撮影の高速化を実現しました。この高速化により、本邦では2010年前後から眼科クリニックにもOCTが普及するようになりました。OCTは生体の断層構造が、造影剤の点滴などを必要とせず、非侵襲的にかつ短時間で観察できる装置で、深達度には限界があるものの、小さく複雑な構造を持つ眼球にはふさわしい検査装置といえます。

OCT検査によって発見し、治療効果を評価し病勢の経過を追うことのできる眼疾患には、糖尿病網膜症、網膜血管閉塞症、加齢黄斑変性、網膜硝子体界面病変、中心性漿液性脈絡網膜症、病的近視そして緑内障などがあります。中年以後の方に多い眼病が網羅されています。OCTは網膜の層構造の変化や厚みと視神経乳頭断面を描出します。昨年からは造影剤を用いず網膜の血管形態を描出できるOCTアンジオグラフィが発売され、今後急速に普及してゆくものと思われます。

眼科領域においてもOCTや抗血管内皮増殖因子抗体(分子標的薬)の硝子体内注射といった診断器機と治療法の進歩により、多くの疾患の早期発見、早期治療が可能になっています。

(生島  操)