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蜂刺されによるアナフィラキシーショック

夏から秋にかけて山間だけではなく人家にスズメバチの巣ができ、ハチの群れに襲われる事故がニュースになります。スズメバチをはじめハチに刺されると、刺された部位が急に腫れ、痛みが生じ、時には血圧低下、呼吸困難、意識喪失などの全身症状が起こり、死に至ることがあります。このような症状は、ハチに刺されて体に入ったハチ毒(タンパク質やペプチド)が起こすアレルギー反応と考えられており、重症の場合、アナフィラキシーショックと呼んでいます。

ヒトの体の中では外界と接する皮膚、眼瞼結膜、鼻、気道、消化管に、マスト細胞(肥満細胞)と呼ばれる顆粒を豊富に含む細胞が多数存在し、顆粒内には血管透過性を高め、じんましんをもたらすヒスタミンという物質が大量に貯蔵されています。ハチ毒が体に入ると、マスト細胞からヒスタミンが一気に遊離して、アレルギー反応が起こります。この反応では、一度ハチに刺されることでハチ毒に対するIgEという抗体(免疫グロブリン)がつくられ、さらにIgEがマスト細胞にくっついた状態になると、再びハチに刺されることでハチ毒がIgEと結合し、ヒスタミンの放出が生じます。

養蜂家や林業に携わる方でハチに刺された経験のある方はハチ毒に対するIgE抗体がつくられている可能性もあり、ショックの危険性が高いわけです。平成20年改正の林業・木材製造業労働災害防止規定では、ハチ刺されの恐れのある場所で作業する場合、ハチアレルギーの検査または診察を受け、重篤なアレルギー反応を起こす恐れのある作業者は食物アレルギーショック時の救急処置に用いるアドレナリンの自己注射器(エピペン)を携行するよう勧められています。

一方、初めて刺されてショックを起こす例も稀にあり、IgE抗体を介さずにマスト細胞から大量のヒスタミンが出た結果と考え、この場合はアナフィラキシー様反応といいます。最近の研究から、ハチ毒のような特殊な構造を持つペプチドや薬が結合する「受容体」がマスト細胞の表面にあることがわかってきました。まだその受容体をブロックする薬はありませんが、今後アナフィラキシーショックの予防に使える薬ができる可能性があります。

(前山  一隆)